「ひどい。死にたい」



 「ひどい。死にたい」

タクは今にも泣き出しそうな顔で言った。そしてみるみる瞳に涙がたまり今にも溢れんとしている。唇をぎゅっと結んで、眉も一緒にきゅっとすくめる。さらに両手で顔を覆い始めた。というところで、わたしはそろそろ待ったをかけた。

「男の子でしょ、泣かない!」

タクの手が顔を覆う前に、手首を掴んで引っ張った。隠し損ねたタクの顔は涙をこぼす三秒前。三、二、一、ぼろり。

「男の子じゃない」
「君は男の子です」
「男の子だって泣きたくなりますう」
「あんたは泣きすぎ。我慢しなさい」

だってえ、と情けない声をあげて、タクは瞳にたまった涙を袖で拭き取った。

「泣き虫」
「虫じゃない」
「セックス下手でもいいじゃない」
「よくないよお……」

タクの、茶色に染めて傷んだ髪の毛を撫でてあげながらわたしはため息をつく。その隣でタクは鼻をすすっていた。

「だってさあ、彼女に『エッチ下手だね』って言われたんだよ!? ぼくだって男の子なんですからさあ……。あー死にたい。ひどい。ミカちゃんひどい」
「正直な彼女ね」
「やだもう死にたい」

体育座りになって顔を埋めるタクを、はたしてどう慰めてよいのやら、わたしにはわからない。あらかたの慰めは言ったはずなのに、本人は落ち込みっぱなしだ。どうするべきだろう。とりあえず今度はタクの背中をさすってあげた。

「うえ、あんま上にさすらないでよ吐きそうになるじゃん」
「あ、ごめんごめん。てかタクが上手くなれば済む話だよ」
「どうやって!? 浮気推奨されてんの俺!?」
「あー、いや違くて。うーん……ま、ガンバレ」

ひどい、死にたい、とまたタクは繰り返して、今度はうつぶせに倒れこんだ。泣きながらうつぶせになるとか目ェ腫れるよ、と親切に助言してあげたけど、タクはうん、とくぐもった声で返事をしただけだった。

 面倒だ。落ち込んで泣き出した、もしくはそれに近い状態になったタクは面倒だ。わたしはもう相手にすまいとタクがいる場所と反対を向いて寝転んだ。

「……ていうかさ」

タクが曇ったままの声で言った。続いて振動。タクが起き上がったようだ。

「そうだよ、ていうかさ!」
「なに」
「ミカちゃんに謝ってもらってないよ! 結構傷つく一言だったのに」
「ふうん」
「謝れよ今ここで!」
「あ、うん。ごめん、さすがにはっきり言い過ぎたよね」

そう言うとタクは満足そうにうなずいたが、またしぼんでいった。

「事実は事実だからしかたないじゃん。上手くないんだもん」
「これからはもっとソフトに」
「わかった、オブラートに包んで言います」
「二、三枚は包んでください」
「善処します」




---(了)

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