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太陽光は容赦なくわたしにつきささり、せみは騒がしく鳴いている。気温は36度か37度で、ちょうど自分の体温くらいだ。そう考えると、わたしはこの空気と一体化して溶けてしまうんじゃないかと思った。今この瞬間、わたしは夏の空気の一部なのだ。じんわりとにじむ汗をフェイスタオルで乱暴にぬぐったが、その行動には意味がない。ぬぐってもぬぐっても、とめどなく汗は流れてくる。うんざりして、わたしは足早に歩き出した。
図書館に行こうなんて思ったのが、そもそもの間違いだったのかもしれない。しかし、返したい本もあったし、借りたい本だってあったのだからしかたない。そう自分を納得させて、ぐったりとしつつもわたしは図書館へ続く道を歩いていた。それはもう、だらだらと。
信号がちかちかと点滅してわたしを急かす。ヒールのついたサンダルをカコンカコンといわせながら走るとデコボコしたアスファルトにつまずいてしまった。片方のサンダルがころんと脱げ落ちる。転びはしなかったが裸足で触れた道路は、目玉焼きができそうなくらいに熱かった。ヒールを拾うために数歩下がり、くもりの格好で転がったヒールを持ち上げた瞬間、わたしは目の前に車が迫っていたことに気づいた。そのまま暗転。こうして、わたしの人生は唐突に幕を閉じた。
次に意識が戻ったとき、一番に反則だと思った。死んでなかったのだ。まだかすむ視界に入ったのは、白の明朝体で、でかでかと書かれた「前」という文字であった。辺りを見回すと、真っ暗で地面も壁も天井も区別はつかなかったが、もう一つ同じように白い文字で「後」と書かれていた。ここがどこなのかとか、そもそもなぜ病院じゃないのかとか、そういうものはまったくわかならかった。しかし、必ずどちらかに進まなくてはならないと思った。強迫観念というやつなのかは不明。とりあえずここにいてはいけなくて、どちらかに動かなければなたない。なので、わたしはたまたま近かった、「前」の方向へ進むことにした。
急に視界が開けたので、あまりの眩しさにぎゅっと目を閉じた。しかしまぶたを突き抜けて光が差し込む。手でまぶたを覆っても同じことだった。薄く目を開けて両手を確認すると、わたしの両手はむこう側がぼんやり見えるくらいには、すけていた。肌に霞んで見える景色は、ついさっきわたしが命を落とした場所である道路だった。
「……な、え!?」
憎らしいほどの青い空も、輝く入道雲も、ぶんぶん通りすぎていくバイクや車、他人に無関心そうに早足で歩く人、なにもかもが変わらない。しかし、わたしが轢かれたであろう道路には、血痕ひとつ残っていなかった。混乱しすぎて、言葉が出ない。
よくよく意識してみれば、少し前まで暑い暑いとわたしを追い込んだ太陽の光にも、熱を感じない。むしろ、きん、と冷えたような心地すらした。なんだか怖くなって、わたしは隣を通りすがる人に助けを求めようとした。
「す、すみません」
声をかけた茶髪のオネイサンは見向きもせずに、すいすいと通りすぎた。別の人にも声をかけたが、みんなまるでわたしが見えていないかのようだった。
やっぱりそうなのだ。
変に冷めた頭のどこかでぼんやりと思った。
わたしはすでに、失われてしまっている。
わたしの口からは乾いた笑い声が漏れた。しかしもちろん、その声を聞く人間はいない。わたしは確かにあの時死んだのだ。死んだ。死んだ死んだと言葉を転がし現実を見てみるが、やはり信用しがたいことであった。
割りきることなんてできないが、そうなってしまったのだからどうしようもない。誰にも見えなくて、ほとんど存在しなくなったわたしは、いったい何が起こっているのか考えようとした。なぜ、わたしが死んだと思われる場所に、血痕もなにもかもが消えているのか? ここは、いつ? そのとき、暗闇の中にいたときのことを思い出した。「前」「後」、これって時間列のことじゃないのか。「過去」「未来」。だとしたらわたしは今、「過去」にいるのだ。ここにいる“わたし”がこの道路で死ぬまで。うるさくわめくセミの声も気にならないくらい、わたしは絶望した。もういなくなってしまったわたしに、存在している“わたし”をどうしろと言うのだ。最期に轢かれて死ぬ“わたし”を黙って見てろと、言うのだろうか。なんて残酷。わたしはまた笑った。頬がひきつり、それでも声を出して笑った。もちろん、わたしの笑い声を聞く人なんかいやしない。
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誰か続き書いてって言いたいくらい。どうしよう収拾つかない。
あと結構文章めちゃめちゃしてます。ほとんど一発書きだし。
ずーっとフォルダに眠ってて、たまに開いてやってもどうしようもなくなったカワイソウな子です。
誰かほんと拾ってあげてry
お話の季節→真夏
これを書き始めたの→四月か五月
ぶっちゃけ何年か前に書いたのをリメイクしようとして失敗した奴だったりする。
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