白い海


※若干残酷な描写があります。苦手な方はバックプリーズ。


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 たゆんたゆんと波に揺らめいていたと思っていたら、いつしかそこは海ではなくなっていたのです。

 右の耳をはさみでちょきんと切られたわたしは、そこからミルクのような柔らかな白の血を流していました。肩が血にまみれてじんわり暖かいのです。あなたは舌を出しなさいとおっしゃいます。わたしはそれに従うのです。そして、あっという間にわたしの舌は、蛇のように先がふたつに分かれてしまいました。口の中には甘いチョコレート味が広がって、ふたつに分かれた舌をちろちろともてあそびました。えぐり出されたわたしの眼球を、あなたは口で噛んでぐちゃぐちゃにしたのを知っています。
 世界の半分が食べられてしまったのはとても悲しいことでした。


 「何かを失うということは、同時に新しい何かを得るチャンスということだ」

あなたは言いながら、左足の親指の爪を剥ぎました。わたしはうなずきながら、足先を襲う痛みに唇を噛んでいました。わたしの飴のような涙を、長い舌でべろんとすくいあなたは意地悪に笑うのです。この間開かれたお腹の傷に指を突っ込んでかき回して、何か臓器を無理に引っ張りだしながら、あなたは優しく言いました。


 「きっと大丈夫、わたしがついている」





 目が覚めた時、一番に白い海を見ました。

 よく見ると真っ白なただのシーツでした。欠如した体の代わりに、新しいものが手に入ったのかはわかりません。

ただあなたまで失ったわたしは、世界のすべてを失ってしまったので、白い海に身を沈めるよりも、青い海に身を沈めた方が素晴らしい気がしたのです。




---(了)

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